Inkwell Marketing

【具体例付き】コンテンツマーケティングで使えるフレームワーク

作成者: 奥川駿平|Dec 3, 2024 11:03:41 PM

「ターゲットの心に響く文章」とは、一体どのようにして生まれるのでしょうか?

経験豊富なライターが直感的に生み出す、洗練された表現に秘訣があるのは事実です。しかし、こうした『感性』や『センス』に頼るだけでは、再現性のある成果をチーム全体で生み出すことは難しいのではないでしょうか。

そこで注目したいのが、思考や手順を体系化し、誰もが一定の質を担保できるように設計された「フレームワーク」の活用です。私が敬愛するコピーライター、ゲイリー・ハルバート氏も「事前準備ができたらフォーミュラ(公式)に当てはめて執筆するべきと述べています。

たとえば、AIDAモデルやPASフォーミュラといった定番のフレームワークは、文章作成における「型」として、入門者でも効果的な結果を生むための道筋を提供します。

しかしここで問うべきは、これらのフレームワークを使って、単に「伝わる文章」を書くだけで満足していいのか、という点です。手紙ならまだしも、SEOやホワイトペーパーをはじめとするマーケティングコンテンツで目指すべきは、読者の行動や態度変容を促すこと。ハルバード氏の言葉を借りるなら「Write for money(金のために書け)」です。

本記事では、歴10年のライターである筆者が、具体的な事例を交えながらフレームワークの活用法を解説します。

AIDAモデル

現代のマーケティング手法として広く活用されているAIDAモデル。

「Attention(注意)」「Interest(関心)」「Desire(欲求)」「Action(行動)」の4段階を踏むことで、顧客の心理を巧みに誘導し、購買や行動を促せます。以下では、スキンケア商品の販促を例に、AIDAモデルの各ステップを具体例とともに掘り下げてみます。

Attention(注意)

まず最初に必要なのは、読者の目を引くこと。

これはAIDAモデルの出発点であり、最も重要なステップのひとつです。ただし、「目を引く」という行為そのものが目的化してしまうと、読者の関心を一過性のものに終わらせる危険性があります。注意を引くだけでなく、その「注意」を持続させる文脈作りが重要です。

たとえば次のような文章を考えてみましょう。

「知らないうちに肌年齢が5歳も老けているかも?原因は日常に潜む意外な落とし穴。」

この文は確かに目を引くかもしれません。しかし、ここで問うべきは、「老けている」というネガティブな感情に訴えるだけでいいのか、ということです。より持続的でポジティブなアプローチを考えるべきではないでしょうか。たとえば、次のような表現が考えられます。

「肌の未来を変えるたった1つの習慣。あなたの輝きはここから始まる。」

Interest(関心)

次に、読者がそのテーマに「なぜ自分が関わるべきか」を感じる情報を提供する段階です。単に知識やデータを並べるだけでは不十分で、読者自身が「自分に関係がある」と思える共感のストーリーが求められます。

具体的には、次のような情報を作成すると効果的です。

「肌のくすみやハリの低下、その原因は紫外線や乾燥だけではありません。最新の研究では、毎日のスキンケアで見落とされがちな成分不足が主な理由であることがわかりました。実際、約85%の女性が肌に必要な栄養を十分に補えていないと言われています。」

重要なのは、「多くの人が知らない新しい視点」を届けつつ、それが読者自身の課題に直結していることを示す点です。この段階で情報提供が浅薄だと、「だから何?」という疑問を読者に抱かせてしまいます。

Desire(欲求)

「関心」を抱いた次の段階では、「これが欲しい」という感情を喚起することが求められます。ただし、ここでも「煽り」や「誇張」ではなく、具体的でリアルな未来像を思い浮かべてもらえることが重要です。

次のような例を挙げてみましょう。

「このスキンケア商品は、高濃度配合された天然由来の美容成分で、たった1週間で肌の輝きを取り戻せます。たとえば、35歳の女性Bさんは使用開始からわずか10日で『化粧ノリが格段に良くなった』と実感。その変化に驚いた同僚からも『最近肌がすごくきれい!』と言われたそうです。」

ここで「感情的な訴求」に加え、「自分にも同じ結果が得られる」という具体性を意識しています。しかし、この段階で過剰に未来を美化することは避けるべきです。読者の信頼を得るには、「現実的な期待値」を明確に示すことが重要です。

Action(行動)

最終段階では、読者が実際に行動を起こすための後押しをします。このとき、「特別感」や「緊急性」を強調することが一般的です。重要なのは、「行動を簡単にする仕組み」をセットで提供することです。

「初回限定50%オフ!さらに、先着100名様には美容マスクをプレゼント。このチャンスを逃さず、あなたも理想の肌を手に入れましょう!▶︎ 今すぐ購入する」

ここでは、特典の提示とシンプルな行動喚起を組み合わせています。ただし、短期的なセールスにフォーカスしすぎると、「期間限定」という価値が失われた瞬間に顧客のロイヤルティが低下するリスクもあります。この点を踏まえ、持続的な関係を築くための「ストーリー」や「メッセージ」を同時に訴求することが望ましいでしょう。

フレームワークの統合例

これらを統合した場合、以下のようなストーリーが考えられます。

「あなたの肌、実は知らないうちに5歳も老けているかも?肌の未来を変えるカギは、意外な日常に潜んでいます。

肌がくすみがちになる原因は、紫外線や乾燥だけではありません。最新の研究によると、必要な成分を十分に補えていないことが多いのです。この商品は天然由来の成分を高濃度配合し、たった1週間で多くの方が肌の変化を実感しています。

今なら初回限定50%オフ。さらに、先着100名様に特別な美容マスクをプレゼント。この機会を逃さず、あなたも理想の肌を手に入れましょう。

PASフォーミュラ

マーケティングにおけるフレームワークは、往々にして「効率」を優先するあまり、その背後にある「倫理」や「目的」が置き去りにされることがあります。しかし、PASフォーミュラは異なります。

このフレームワークが特筆すべきなのは、顧客や読者が抱える問題に真正面から向き合い、それを深掘りしたうえで、最適な解決策を提示する点にあります。つまり、単なる売上向上の手法ではなく、顧客の生活や選択に「価値をもたらす」可能性を秘めた構造なのです。

PASフォーミュラは、「Problem(問題提起)」「Agitation(問題の深掘り)」「Solution(解決策)」の3段階から成り立ちます。以下では、リモートワーク時代の典型的な課題を例に挙げながら、その実践的な活用方法を掘り下げます。

Problem(問題提起)— 問題の発見は関係性の始まり

すべてのマーケティングは、顧客が抱える問題を発見し、それに寄り添うことから始まります。

この「問題提起」の段階が不十分であれば、以降のメッセージも空虚なものに終わります。重要なのは、読者が「これはまさに自分のことだ」と感じられる具体性と共感です。

次のような問題提起を考えてみます。

「リモートワークが増える中で、『気づくとSNSを眺めてしまい、業務に集中できない』と感じることはありませんか?特に、締め切りが迫るほど気が散るという悩みを多く耳にします。」

ここで注目すべきは、問題を特定するだけでなく、それが「日常的かつ個人的」なものであることを明確に伝える点です。この段階では「煽る」のではなく、共感を通じて読者と関係性を築くことが最優先です。

Agitation(問題の深掘り)— 問題を直視させる勇気

問題を提示するだけでは不十分です。

それを放置した場合に何が起こるのか、具体的かつ感情に訴えかける形で深掘りする必要があります。この段階では、「リスク」や「損失」を適切に示すことが、読者の感情的な関与を深めるカギとなります。

「集中力を欠いた状態が1日2時間続くと、1週間で10時間、1か月では40時間のロスになります。これはフルタイムの労働日5日分に相当し、その影響でプロジェクトが遅れたり、チームや取引先からの信頼を損なうリスクが生じます。」

ここでのポイントは、「数字」という視覚的に理解しやすい要素を用いることです。しかし、これを単なる恐怖訴求に終わらせないようにしなければいけません。重要なのは、読者が「問題を解決する意欲」を持つきっかけを与えることです。

Solution(解決策)— 未来を描くマーケティング

最終段階では、提案する解決策を明確に示します。単なる「商品のメリット」を語るのではなく、その商品が読者にとって「どのような未来をもたらすか」を描写しましょう。

「集中力の問題を解決するのが、業務効率化ツール『Focus Master』です。このツールは、25分作業+5分休憩を繰り返すポモドーロ・テクニックを基盤に、特定のアプリやサイトを制限する集中モードを搭載。利用者の90%以上が、1週間以内に『仕事への集中力が倍増した』と回答しています。」

この段階で解決策を現実的かつ簡潔に示すことが、読者の行動を引き出す鍵となります。

フレームワークの統合例:PASの流れを文章で示す

以下は、PASフォーミュラを活用した文章の統合例です。

「リモートワークが増える中で、『気づくとSNSを眺めてしまい、業務に集中できない』と感じることはありませんか?特に、締め切りが迫るほど気が散るという悩みを多く耳にします。

集中できない状態が1日2時間続くと、1週間で10時間、1か月では40時間の損失になります。これはフルタイムの労働日5日分に相当し、その影響でプロジェクトの進行が遅れたり、チームや取引先からの信頼を損なうリスクが高まります。

そんな集中力の悩みを解決するのが、業務効率化ツール『Focus Master』です。このツールは、25分作業+5分休憩を繰り返すポモドーロ・テクニックを基盤に、特定のアプリやサイトを制限する集中モードを搭載。利用者の90%以上が、1週間以内に『仕事への集中力が倍増した』と回答しています。」

BEAFの法則

マーケティングのフレームワークは、しばしば「効率的に売るための道具」として捉えられがちです。しかし、本当に顧客やビジネスにとって意味のあるアプローチとは、単に「何を伝えるか」ではなく、「なぜ伝えるのか」を問い直すことから始まるべきではないでしょうか。

その点で「BEAFの法則」は、BtoBマーケティングにおける「論理的かつ誠実な伝達」を可能にするフレームワークとして注目に値します。BEAFとは、以下の4つの要素から構成されるシンプルな構造です。

  • Benefits(利益): 顧客企業が得られる具体的な成果
  • Evidence(証拠): 信頼性を補強する実績やデータ
  • Advantages(利点): 競合他社と比較した優位性
  • Features(特徴): サービスの詳細や仕様

このフレームワークは、特にSaaSや業務効率化ツールのような「数値で効果を証明しやすい」商品・サービスにおいて威力を発揮します。以下では、CRMシステムを例に、それぞれの要素を具体的に解説します。

1. Benefits(利益)— 顧客の未来を描く

顧客が最も知りたいのは、「この商品を使えば自分たちの未来がどう変わるのか」です。したがって、この段階では、ターゲットの課題を解決する具体的な利益を明示することが重要です。

「弊社のCRMシステムを導入することで、営業プロセス全体を効率化し、商談成立率を平均30%向上。これにより、貴社の売上アップと顧客満足度向上を実現します。」

このように、導入後の明確な成果を示すことで、顧客は自社の未来像を具体的にイメージできるようになります。ただし、ここで注意すべきなのは、「数字」を過剰に誇張せず、実現可能な範囲に留めることです。顧客との信頼関係を築くためには、「誠実さ」が欠かせません。

2. Evidence(証拠)— 信頼を構築する

次に、利益の裏付けとなるデータや事例を提示し、信頼性を補強します。実績や成功事例を活用し、顧客が具体的な成果をイメージできるようにします。

「実際に導入された製造業A社では、リード管理のミスが1年間で85%削減され、新規顧客獲得数が前年対比で50%増加しました。これにより、売上も20%アップを達成しています。」

このように、具体的な数値や事例を用いることで、顧客は「これは自分たちにも当てはまるかもしれない」と感じられるかもしれません。データの正確性や実例の信憑性が、この段階の説得力を左右します。

3. Advantages(利点)— 競合との差異を明確化する

次に、競合他社との差別化ポイントを伝えます。顧客が複数の選択肢を比較検討していることを前提に、「なぜ自社を選ぶべきか」を論理的に示す必要があります。

「弊社のCRMシステムは、従来のツールとは異なり、高いカスタマイズ性を備えています。業界特有のニーズに応じたダッシュボードをわずか3日で構築可能。また、専任の導入支援チームが初期設定から日常運用まで徹底サポートします。」

ここでのポイントは、単なる特徴の羅列ではなく、「他社にはない独自性」を強調することです。しかし、それ以上に重要なのは、顧客にとってその差異が「本当に意味がある」と感じられるかどうかです。

4. Features(特徴)— 安心感を与える

最後に、商品やサービスの具体的な機能や仕様を説明します。この段階では、導入後の不安や懸念を払拭し、顧客が安心して決断できる材料を提供します。

「クラウドベースのシステムで、インターネット接続があればどのデバイスからでも利用可能です。さらに、AIを活用した商談予測やパフォーマンス分析を自動化し、レポート作成の手間を大幅に削減します。」

このように、具体的な機能を明示することで、顧客は「この商品なら自分たちのニーズに応えてくれる」と確信できます。

BEAFの法則を統合したメッセージの例

以下は、BEAFを活用して統合したメッセージの一例です。

「弊社のCRMシステムを導入することで、営業プロセス全体を効率化し、商談成立率を平均30%向上。これにより、貴社の売上アップと顧客満足度向上を実現します。

実際に導入された製造業A社では、リード管理のミスが1年間で85%削減され、新規顧客獲得数が前年対比で50%増加しました。

弊社のCRMシステムは、従来のツールとは異なり、高いカスタマイズ性を備えています。業界特有のニーズに応じたダッシュボードをわずか3日で構築可能。また、専任の導入支援チームが初期設定から日常運用まで徹底サポートします。

クラウドベースのシステムで、どのデバイスからでも利用可能です。AIによる商談予測やパフォーマンス分析機能が標準搭載され、業務の効率を飛躍的に向上させます。」

PREFの法則

マーケティングやビジネスプレゼンテーションの場で、「何をどう伝えるか」という課題に直面したとき、私たちはどれほど「相手の立場」に立てているでしょうか?

この問いに向き合うためのツールとして注目されるのが、「PREFの法則」です。このフレームワークは、Point(要点)、Reason(理由)、Example(具体例)、Future(未来)の4つのステップで構成され、論理性と納得感を両立させた提案を可能にします。

しかし、PREFの本当の価値は、単に「伝わりやすさ」を向上させる点にあるのではなく、「何を伝えるべきか」を考えるきっかけを提供する点にあります。以下では、クラウドERPの導入提案を例に、PREFの各ステップを掘り下げます。

1. Point(要点)— 提案の核心を明確にする

最初に行うべきは、相手にとっての核心を突く明確なメッセージを提示することです。顧客の課題や期待に直結した要点を一文で伝えることで、「聞いてみよう」という関心を引き出します。

「弊社のクラウドERPを導入することで、業務効率が最大40%向上し、部門間のデータ共有を飛躍的に改善します。」

この一文には、「効率化」と「データ共有の改善」というBtoBの顧客にとって普遍的かつ切実な課題が含まれています。ただし、ここで注意したいのは、単なる数字や結果を並べるだけでは不十分だということです。このメッセージが顧客の現在の文脈にどう結びついているかを示すことが肝心です。

2. Reason(理由)— なぜそれが必要なのかを説明する

次に、「なぜその解決策が必要なのか」を論理的に説明します。この段階では、顧客が直面する現状の問題を深掘りし、その背景を明らかにすることで、提案内容の妥当性を補強します。

「多くの企業ではERP導入が進んでいますが、従来型のオンプレミス型ERPは初期コストが高く、アップデートや保守費用も大きな負担となっています。一方、弊社のクラウドERPは月額料金で利用できるため、初期投資を抑えながら、常に最新機能を活用できます。」

ここで重要なのは、顧客の抱える課題を具体的かつ現実的に描写し、その問題に対する「必要性」を共感的に伝える点です。また、単に「従来型の問題点」を指摘するだけでなく、その背後にある顧客のビジネス環境や成長目標を視野に入れることで、提案の深みを増します。

3. Example(具体例)— 実績で信頼を構築する

具体例は、提案の信頼性を補強するための重要なステップです。成功事例やデータを活用することで、「これなら自分たちにも当てはまるかもしれない」と顧客に実感させることができます。

「製造業のC社では、弊社のクラウドERPを導入した結果、在庫管理業務の時間が従来の1/3に短縮されました。さらに、月末の決算処理にかかる時間が通常3日から1日に短縮され、他の重要な業務にリソースを集中できるようになりました。」

このように、具体的な成果を挙げることで、顧客は「このツールが自分たちの業務にも適用できる」とイメージしやすくなります。ただし、ここでの注意点は「万能感」を与えすぎないことです。例はあくまで一例に過ぎないと明示しつつ、顧客固有の課題に合わせた柔軟な対応が可能である点を伝えるべきです。

4. Future(未来)— 導入後のビジョンを描く

最後に、製品やサービスを導入した結果、顧客がどのような未来を手に入れられるのかを具体的に描写します。この段階では、「数字」だけでなく、ポジティブで現実的なビジョンを示すことが重要です。

「弊社のクラウドERPを活用することで、全社的なデータ統合が進み、迅速かつ正確な意思決定が可能になります。これにより、変化の激しい市場環境でも柔軟に対応し、新たなビジネスチャンスを確実に捉えられる組織体制を構築できます。」

ここでは、顧客に「未来への投資」としての納得感を持たせることが重要です。ただし、この未来像を過剰に理想化すると、かえって不信感を与えるリスクもあります。あくまで現実的でありながら、顧客が「自社の未来」として共感できる内容であることが求められます。

PREFの法則を統合した提案例

以下は、PREFを統合した提案の一例です。

「弊社のクラウドERPを導入することで、業務効率が最大40%向上し、部門間のデータ共有を飛躍的に改善します。

多くの企業では従来型ERPが負担となっていますが、弊社のクラウドERPは月額料金で初期投資を抑えつつ、常に最新機能を活用可能です。

製造業のC社では、在庫管理業務が従来の1/3に短縮され、決算処理も1日に短縮。他の重要業務にリソースを集中できるようになりました。

このツールにより、迅速で正確な意思決定を可能にし、変化の激しい市場で新たなビジネスチャンスを確実に捉えられる組織体制を構築できます。」

PASONAの法則

マーケティングの現場で最も難しいのは、顧客が自らの課題に気づき、それを解決する行動を起こすよう促すことではないでしょうか。単に商品の良さを伝えるだけでは、顧客の心は動きません。そこで有効なのが、「PASONAの法則」というフレームワークです。

PASONAの法則は、Problem(問題提起)Agitation(問題を掘り下げる)Solution(解決策の提示)Narrowing down(絞り込み)Action(行動喚起)の5つのステップで構成され、顧客の課題を共感をもって明確化し、最適な解決策を提示して行動を促すプロセスを提供します。特に、このフレームワークの強みは、「潜在的な課題を顕在化させる」効果にあります。

忙しい毎日を過ごす現代人に向けた冷凍ミールキットの提案を例に考えてみましょう。

1. Problem(問題提起)— 顧客の悩みに気づかせる

最初のステップでは、ターゲットが抱える問題を明確にします。ここでは、顧客が「これ、自分のことだ」と感じるように、具体的かつ共感を呼ぶ表現が求められます。

「仕事と家事に追われる毎日で、夕食の準備に時間が取れないと感じていませんか?外食やデリバリーが続き、家計や健康面で不安を抱える方が増えています。」

この段階では、問題を過度に煽る必要はありませんが、読者の現状を的確に言語化し、自分の課題として捉えてもらうことが重要です。

2. Agitation(問題を掘り下げる)— 解決を先送りするリスクを示す

次に、その問題を放置した場合にどのようなリスクや不便があるかを掘り下げ、顧客の感情に訴えかけます。このステップでは、数字や具体的なシナリオを用いると効果的です。

「夕食作りに時間を取られることで、家族との時間や自分のリラックスする時間が削られ、ストレスが蓄積します。さらに、頻繁な外食やデリバリーは食費が増大し、栄養バランスの乱れにもつながります。」

このように、読者が「このままではいけない」と感じる心理的なスイッチを押すことが、この段階の目的です。

3. Solution(解決策の提示)— 問題を解消する明確な提案

顧客が課題を認識し、その深刻さを実感したら、次に解決策を提示します。ここでは、具体的な機能やメリットを示しつつ、導入後のポジティブな未来をイメージさせることが重要です。

「そこでおすすめなのが、冷凍ミールキット『おまかせディナー』です。食材はすべてカット済みで、10分以内に栄養満点の料理が完成。さらに、30種類以上のメニューから選べるため、家族全員が喜ぶ多彩な食卓が実現します。」

この段階では、「簡単」「おいしい」「安心」といった顧客が求める価値を明確に伝えることが鍵となります。

4. Narrowing down(絞り込み)— 自分ごととして捉えさせる

次に、商品やサービスが特定のターゲットに適していることを示し、「これは自分のための提案だ」と感じさせます。

「特に、共働きで小さなお子さんがいる家庭や、仕事で忙しい単身者の方に最適。栄養バランスを考えながら、時短でおいしい食事を提供します。」

ターゲット層を明示することで、読者の共感を引き出し、商品やサービスとの関連性を強化します。

5. Action(行動喚起)— 今すぐ行動する理由を提供する

最後に、顧客に行動を起こしてもらうため、緊急性や特典を加えた明確なCall to Action(CTA)を提示します。

「今なら初回限定50%オフ!さらに、5食セットを注文すると特製デザートを無料でプレゼント。このキャンペーンは今週末まで。ぜひこの機会にお試しください!」

このステップでは、具体的な行動を促すだけでなく、行動するメリットを明確に示すことで、顧客の購買意欲を最大化します。

STARモデル

私たちは何かを伝えるとき、しばしば「データさえ示せば納得してもらえる」と考えがちです。しかし、データだけでは人の心を動かすことはできません。必要なのは、データを文脈に載せ、相手に「自分の物語」として受け取ってもらう工夫です。そうした伝達の技術として注目されるのが、「STARモデル」です。

STARモデルは、Situation(状況)Task(課題)Action(行動)Result(結果)という4つのステップで構成されます。このフレームワークは、成功事例をストーリーテリングの形式で伝えることで、顧客に明確な成果をイメージさせる仕組みです。特にBtoBマーケティングの現場では、こうした「物語」による説得が大きな力を持つとされています。

しかし、ここで考えたいのは、「STARモデルによって得られる説得力」が本当に顧客のためになっているのか、という点です。私たちが目指すべきは単なる「納得」ではなく、顧客の課題解決に寄り添い、「共感」を通じて信頼を築くことではないでしょうか。その視点から、このモデルを見直してみましょう。

1. Situation(状況)——背景を共有し、共感を誘う

物語の冒頭では、顧客が直面している状況を描写します。この段階で大切なのは、「自分ごと」として捉えてもらうための具体性と親近感です。たとえば次のように描けます。

「製造業のD社は、従業員500人規模の中堅企業で、国内外に5つの拠点を展開していました。しかし、各拠点で在庫管理がバラバラに行われ、全体の状況を正確に把握できない状態でした。」

このように、特定の業界や規模を明示することで、読者は「自分たちの話かもしれない」と感じます。ただし注意すべきは、状況描写が単なる「記述」に終わらないこと。背景を共有することで、顧客の課題に対する共感を深めることが目的です。

2. Task(課題)——課題を深掘りし、真の問題を浮かび上がらせる

次に、顧客が直面している課題を掘り下げます。この段階では、表面的な問題だけでなく、その背景にある構造的な課題を示すことが求められます。

「D社では、拠点ごとに在庫管理システムが異なり、情報が統一されていないため、過剰在庫や欠品が頻発していました。結果として、年間で約500万円の在庫コストが無駄となり、緊急出荷対応の遅れにより取引先の信頼を損なうケースも増えていました。」

このステップでは、課題の「数字」を示すことが有効ですが、それ以上に重要なのは、「課題を放置すればどうなるか」という未来像を想像させることです。顧客がその課題を自らのものとして意識することが、次の行動を引き出す鍵になります。

3. Action(行動)——解決策を具体的に語る

課題が明確になった段階で、どのように解決したのかを語ります。このステップでは、自社の製品やサービスがどのように役立ったのか、プロセスを具体的に示すことが重要です。

「D社は弊社のクラウドERPシステムを採用し、各拠点間でリアルタイムに在庫データを共有できる環境を構築しました。導入チームが現場と密に連携し、わずか2か月で全拠点へのシステム移行を完了。また、従業員向けの操作トレーニングを実施し、運用開始後のトラブルを最小限に抑えました。」

このように具体的な行動を示すことで、顧客は「この方法なら自分たちも導入できる」と感じます。ただしここで注意すべきは、「自社の力」を過剰に強調しないことです。解決に至るプロセスを顧客と共に歩んだという姿勢を示すことで、信頼感が増します。

4. Result(結果)——成果を明確に、未来を描く

最後に、導入後に得られた成果を具体的な数値や声で示します。ここでは、顧客がその未来を明確にイメージできることが重要です。

「システム導入後、D社では過剰在庫が年間で70%削減され、約350万円のコスト削減に成功しました。また、緊急出荷対応率が95%に向上し、主要取引先からの信頼が回復。従業員からも『業務が効率化され、迅速な対応が可能になった』という声が寄せられています。」

このステップでは、「成果」が単なる数字の羅列ではなく、「顧客の未来の変化」を描き出しているかを確認することが大切です。顧客が「自分たちの成功の姿」を思い描けるような描写を心がけましょう。

モデルごとの比較と用途マッチング

モデル 特徴 向いているコンテンツ 目的
AIDAモデル 注意・関心・欲求・行動の4段階で顧客心理を誘導 LP、広告コピー、セールスメール 顧客の心理を誘導し購買行動を促す
PASフォーミュラ 問題提起、問題の深掘り、解決策提示の3段階 ブログ記事、SNS投稿、リードナーチャリング 顧客の課題を顕在化させ、共感を引き出す
BEAFの法則 利益・証拠・利点・特徴を整理して論理的に伝える ホワイトペーパー、提案書、パンフレット 論理的に信頼を構築し、差別化を図る
PREFの法則 要点・理由・具体例・未来の4ステップで提案を構築 ビジネスプレゼン、ホワイトペーパー、提案書 論理性と納得感をもたせた提案をする
PASONAの法則 問題提起から解決策、絞り込み、行動喚起までの5ステップ ブログ記事、LP、セールスレター 課題解決と行動喚起をスムーズに導く
STARモデル 状況・課題・行動・結果をストーリーテリング形式で伝える ケーススタディ、ブログ記事、提案書 ストーリーテリングで信頼を生み出す

まとめ

文章は、単に情報を伝えるだけの手段ではありません。それは、人と人との間に信頼を生み出し、共感を育み、行動へとつなげる「媒介」としての力を持っています。そのため、重要なのは「どのような言葉を使うか」という技術論だけではありません。「なぜその言葉を選ぶのか」、そして「その言葉が何を生み出すのか」という視点が欠かせません。

今回ご紹介したフレームワークは、いずれも人間の心理や行動原理に根ざして設計されています。それぞれが異なる状況や目的に応じて活用できる、優れたツールです。しかし、これらを使いこなすためには、「フレームワーク通りに書けばいい」という考え方を超える必要があります。そのためには、以下3つの問いに答えてから制作を始めましょう。

  1. 誰のために書くのか?
  2. 何を伝えるべきか?
  3. どのような未来を描かせるか?

フレームワークはあくまで「道具」であり、その効果を引き出すのは、それを使う私たちの意図と視点です。文章を通じて人々にどのような価値を提供し、どのように行動を促すのか。読者に寄り添い、信頼を紡ぐための文章を目指すとき、フレームワークは初めてその本質的な力を発揮するでしょう。